〜現代の小説2008
日本文藝家協会 編
森見と堀のために読んでみた。せっかくなので通して読んでみたが自分の好き嫌いとはいまひとつフックが違う。さすがにつまらなくは無いけどどんどん流れていくような。楽しかったのは「黒豆」「涙腺転換」「弁明」「蝸牛の角」あたり。ある意味で「図書館のにおい」も。
「絹婚式」石田衣良 夫の女性恐怖症を治そうとする話。だいたいそのまんま。絹とか鋼鉄とかは別に説明しなくても。
「“旅人”を待ちながら」宮部みゆき 落ちこぼれ魔法学生ココロの試練。ファンタジー世界を舞台にした小話。
「黒豆」諸田玲子 正月に帰省したOLと、わけありな店子の接触。主人公の思惑からがらっと変わる展開が上手い。
「匂い梅」泡坂妻夫 紋章上絵師たちの懐旧。まったく馴染みのない素材なので興味深い。
「笑わないロボット」中場利一 走り屋で兄貴肌な僧侶が預かった友人の子供。これ系の話としてはオーソドックスな大人たちの配置に、現代の子供たちの状況を上手い距離感で継いである。いかにも滑りそうだけど。
「涙腺転換」山田詠美 母の言いつけを守り涙を堪え続けた少年の悲喜劇。軽快に饒舌な一人称で押し切る愉快話。
「秋の歌」蓮見圭一 かつて画家を志した男が地元に帰って昔の恋人とかにあったりしてうろうろする。かったりい。
「みんな半分ずつ」唯川恵 対等に生きてきたはずの夫の裏切りに戸惑うデザイナー。最後が却ってステロタイプな印象。
「雪の降る夜は」桐生典子 厭世的になった看護士と格好付けな中年が北へ行く人情話。落ちはやりすぎ。
「黄色い冬」藤田宣永 上司の妻に惹かれた青年と「黄色」の因縁。道具立てがなんか嫌い。ラストへの持っていき方も嫌。
「図書室のにおい」関口尚 文学少女に憧れる少年の恋そのほか。なんという耳すま。言及される本の選定とかあらゆるレベルでむっずむずする。
「ぶんぶんぶん」大沢在昌 刑事コンビが護衛することになった漫画家は、神秘家にはまっていた。京極いじり。
「弁明」恩田陸 劇団を追放され窮状に落ち込んだ女の独白。枠が解けない不安を残す。解らなかったけど面白い。
「五月雨(さみだれ)」桜庭一樹 ホテルマンが目撃する「殺人鬼」と「狩人」、家族の概念。ジャンルものでないならもっと何も説明しなくていいんじゃないか。
「初鰹」柴田哲孝 美味しんぼ的薀蓄話。和歌山で食べた初鰹の刺身は美味しかった、という客の呟きの意味とは。まぁそのままの話。
「その日まで」新津きよみ 時効まで逃げ続ける殺人犯の女とその友人。「意外な落ち」に持っていく流れが何か変。驚けないというか唖然とするというか。
「蝸牛の角」森見登美彦 阿呆神を巡り連鎖するぼんくらたちの阿呆な姿。こういうの好きだなぁ。
「渦の底で」堀晃 硬度を持たない奇妙な結晶で覆われた惑星の話。トリニティシリーズ。結論がよく解らない。
「蝉とタイムカプセル」飯野文彦 既読。(→SFM07.10)
「唇に愛を」小路幸也 あるバンドの回顧。枠の趣向が中々気が利いているが文体があまり好きじゃない。しかしウルトラマンをイメージした武者鎧って、浅井長政@BASARA……。
「私のたから」高橋克彦 テレビ番組の出演依頼を受けた私小説風のスタートからB級なノリへスライドしていく愉快話。