2009年06月30日

六月日記

17冊ほど読んだ。

6/30 「いやしい鳥」を読む。
6/29 「バスカヴィル家の犬」「SFM09年8月号」を読む。
6/28 「ぼくは行くよ」を読了。「長江哀歌」「四川のうた」を観る。
6/27 漫画などを読む。
6/26 作業。
6/22~25 浮いたり沈んだり。
6/21 「木のぼり男爵」を読む。
6/20 宴会。
6/19 「ハイ‐ライズ」「まっぷたつの子爵」を読む。
6/18 ぼんやりする。
6/17 「この不思議な地球で」を読む。
6/16 「翼を愛した男たち」を読む。
6/15 寝過ごす。
6/14 「東京へ飛ばない夜」を読む。
6/13 「あなたまかせのお話」を読む。
6/10~12 「シャムロック・ティー」「文体練習」を読む。
6/9 「麗しのオルタンス」を読む。
6/7~8 上手いこといかないので逃避的になる。
6/6 「部屋の向こうまでの長い旅」「美女と竹林」を読む。
6/5 作業。
6/4 休養。
6/1~3 ひとごこち。「穴掘り公爵」を読む。
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「いやしい鳥」

藤野可織 文藝春秋/<来るべき作家たち>シリーズ

「いやしい鳥」 不愉快な学生が鳥と化し、講師は隣人に不審がられながらも懸命に戦う。とにかく食ったり食われたり、食われそうになったり吐いたりと忙しい。インスタントおかゆを食べながらあいつのゲロを食べちゃったんじゃないかと思うくだりが好き。楽しかった。
「溶けない」 ベランダの向こうで知り合いを飲み込もうとしたのは、昔お母さんを食べてしまった恐竜なのだ。認識が噛み合わないまま裏返ってしまったのに、その上、外からも突っ込まれてしまう。四面楚歌とはこのことか。
「胡蝶蘭」 凶暴な胡蝶蘭に捕まって世話することになった話。上の二つの比べるとすんなり纏まってるけど物足りない。とりあえず食べたり食べられたりして世間は回っているんだなぁ。
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「S-Fマガジン09年8月号」

早川書房

チャイナ・ミエヴィル特集
「鏡」
異世界からの侵略者によって荒廃した街をさまよう男の話。
幻想的なものをとにかくグロテスクに書く持ち味が炸裂。一つのアイデアで歴史、自然現象、ファンタジーのガジェットを再解釈し、モンスターを一山ロンドンに解き放つ。楽しい。ただ二つの語りがどうかみ合うのがいまいち解らなかった。
「ある医学百科事典の一項目」
演説によって伝染する疫病の話。
言葉による病はともかく、生理的嫌悪感たっぷりの症状は流石としかいいようがない。付則情報も面白い。奇病アンソロジーは以前人様にお借りして結局読まずに返してしまったのだけど、こうして翻訳されたものを読むともったいなく思えてくる現金さ。
「ジャック」
権力に刃向う下層民のヒーロー、お祈りジャックの伝説。
『ペルディード・ストリート・ステーション』の外伝短篇らしい。とりあえずダークさと、きっちりまとまったオチがよい。
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2009年06月29日

「バスカヴィル家の犬」

アーサー・コナン・ドイル 河出書房新社/シャーロック・ホームズ全集・5

魔犬伝説が伝わる富豪バスカヴィル家の当主チャールズが不審な死を遂げた。近くに犬の足跡があったことから、付近住民に伝わる魔犬の仕業と噂する。チャールズ卿の主治医・友人であったモーティマーはホームズに調査を依頼する。別の事件を追うホームズに代わり、後継者であるヘンリ卿とともに館を訪れる。周囲には何やら訳ありっぽい人々、潜伏しているらしい脱走犯、そして広大な荒地に響く謎の吼え声。

偶々「バスカヴィル家の犬」という言葉を耳にしたので読んでおこうと。
荒涼とした湿地帯の広がる田舎の雰囲気が面白い。怪奇幻想譚という感じ。理性と幻想、文明と自然みたいな解釈をするのが妥当なのだろうけど、真相が明かされてかえって不審になるというか結局恐怖が勝るような印象。脱走犯の死とか、消えた飼い犬とか、犯人も姿を現さず消えしまうし。
あとは、いかにして書かれたかなど作者の周辺情報をマニアックに追う元本の解説と、見立て分析により本書はドイルの私生活の投影であると読解する訳者解説、ノリのギャップが面白かった。有名な仮説なのだろうけど、全部ぴったりはめるあたり胡散臭いなと思ってしまうタイプ。
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「ぼくは行くよ」

ジャン・エシュノーズ 集英社

 微妙な美術商フェリックス・フェレールは「ぼくは行くよ」と言い捨てて妻のもとを去り、今は行きずりの関係を繰り返しつつ大プロジェクトを構想中。それはアシスタント、ドラエの提案による、北極圏で原住民の装飾品を積んだまま座礁した船の探索と回収。ところがドラエは出発目前に急死してしまう。事態の裏側で不穏な行動を取る男ボムガルトネールもいるがフェレールは知るよしもない。果たしてプロジェクトとフェレールはどうなるのか。

 と言っても派手な活劇とかではなく、要するにフェレールの人生から「いろいろ大変だった時期」を切り取った小説。エンターテイメントではない。三人称小説でありながら作者の介入があり、それが物語と不思議な距離感を作っている気分。潜伏生活は退屈だからはしょろうとか、やっぱり作者も彼だと思っていたとか、小粋な冗談を交えて実はかなり波乱万丈な出来事をトボけた語りでふわふわと読ませてしまう。人生の悲喜交々を軽くマイルドに書いた一本だろうか。北極旅行やボムガルトネールの暗躍よりも、気があるのか何だかよく解らないのに接近してくる女性のほうが深刻に思えるあたりそれっぽい。
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2009年06月23日

「木のぼり男爵」

イタロ・カルヴィーノ 白水社

啓蒙時代のフランス。森や果樹園が広がる緑豊かな田舎オンブローザを治めるコジモ・ロンドー男爵は、少年のころ食事の席でエスカルゴ料理に癇癪を起こしてとびだして以来、一歩も木から下りていないのであった。

というわけで「我らの祖先」三部作を消化完了。圧倒的な虚構がやすやすと紡がれ迫ってくる驚異の一冊。常に樹上という制限が架せられているはずなのに、却って物語の想像力は解き放たれ、田舎貴族の物語から虚構の彼方へと飛んでいく。男爵は木に登ったまま初恋をし、農民を助け、学問を修め、盗賊と仲良くなり、トルコの海賊と戦い、革命を支持する。樹上生活のためのもっともらしい仕掛けや日々の営為が出てきたかと思えば、樹上で仇敵と切り結んでしまうような派手な活劇が飛び出し、挙句史実の大事件や『戦争と平和』と交差する領域まで突き進む。
何が出てくるか解らない物語ではあるが、貴族一家とコジモの初恋の少女ヴィオーラの強いキャラクターがきっちりと一つの物語として繋いでいる。特にヴィオーラのお嬢様っぷりは素晴らしく、やはりお嬢様はかくあるべしだよなぁなどと思った。それはさておき、冒険の果てコジモは徐々に狂気に囚われ、物語は現実の足場を失い最期には文字通り宙に消えてしまう。語り手である弟が、虚構のなかに消滅した兄を思い返すしめくくりはしんみりする。格好良かったので丸々メモしてしまう。

オンブローザはもうないのだ。広々となった空をながめながらわたしは、ほんとうにオンブローザは存在したのだろうか、と考える。木の葉や枝や、枝の分かれ目、葉の切り込み、羽毛のような芽ばえなどが刻む、こまやかな、はてしないぎざぎざ模様、そして、不規則な閃光と断片とでしかない空――それはきっと、兄がしじゅうからのような軽やかな足どりで通って行くためにだけあったのだろう――これらは無の上に織りなされたレース模様だ。まるでわたしがページからページへ走らせたまま、削除や割り込みや、神経質ななぐり書きや染みや空間やでいっぱいになっている、この行列に似ている。時には明るい大粒のぶどうのようになって零(た)れ落ち、時にはあわ粒みたいにちっちゃな記号(しるし)になって凝り固まる。身をくねらせたり、枝分かれしたり、あるいはことばの果実を木の葉か雲の形をした囲みで結んだり、それからまた鉢合わせしたりして、どんどん走り続け、また解(ほぐ)れ、そしてことばや思想や夢の最後のばかげた一房を生らして、おしまいになるのだ。
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2009年06月20日

「まっぷたつの子爵」

イタロ・カルヴィーノ 晶文社/文学のおくりもの・2

テッラルバの領主の息子メダルドはトルコ軍との戦争で砲撃を受け、体が真っ二つになってしまう。奇跡的にも命を取り留めたが体は縦にまっぷたつ。しかも人間ならば善悪併せ持つはずの心までまっぷたつになり、邪悪の権化として帰還してきたのであった。危険な悪戯から暴政までフル活用でテッラルバの住人を苦しめるメダルド子爵だが、そこに現れた流浪の聖人君子。案の定というか、こちらはメダルドの「善い半分」だった…。

『穴掘り公爵』を読んだ流れで。
山賊、らい病患者や異端宗派のゲットーなど、田舎の村が抱えた問題を純粋な善・悪と化してしまった子爵(たち)がぞくぞく掘り起こしていく。また中心にある善悪の寓意のみならず、信仰、快楽、技術、親の愛エトセトラについて風刺を放つという盛り沢山な一遍である。
寓話めいたドタバタでありながらも、さりげなく語り手の少年の成長物語でもあるのは「語り手」の介在を重視するカルヴィーノならでは。子爵家の血縁であり孤児である少年は居場所がなく、代わりに村内を自由に行き来する語り手である。しかし臆病で夢想家だった友人の博士は物語の起承転結に関わってしまい、そして船医に戻り村を去っていってしまう。これまで自由な視点であった少年は、不安定な若者として取り残され、悲痛な叫びを上げる。そこで読者と重ねるのはできあいにすぎるかもしれないけど何かグッときた。
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「ハイ‐ライズ」

J・G・バラード 早川書房/ハヤカワ文庫SF・377

 四十階建て超高層マンションに暮らす人々が階の高さに応じたヒエラルキーを作り、その「社会」構造が遷移していく様子を描く。主な登場人物は下層階のテレビプロデューサー・ワイルダー、中層階の医師・ラング、最上階の建築家・ロイヤル。
 追悼の一区切りとして読んだ。『クラッシュ』『コンクリートの島』からなるテクノロジー三部作の一つ。ただの無法状態ではなく、みなが暗黙のルールに則り、かつ外部に対しては一致して何事もないかのように振舞うというメタルールが中々秀逸。ただの俗悪な大騒ぎ、退行的な人間ドラマではなく、人間離れした論理、まるで異星の生態系を見ているような面白さがある。大体どの人間関係でも男女の性愛関係が焦点となるのもその動物的な印象を補強している。社会に潜んだ異形の生命が、人間の肉体と文化を苗床に現出してくるという異界の進化史。力と権力をふるい混沌の中で欲求を追求してきたワイルダーたち三人が矮小化し、女性の拡大家族のもとにマンションの秩序が再構成されるというのもおもしろい。
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2009年06月18日

「この不思議な地球で」

〜世紀末SF傑作選
巽孝之=編 紀伊国屋書店
こういうポストモダン/サイバーパンクSF系統が好きらしい。前半はちょっと古い気がしていたが、後半の幻想風味がかなりツボだった。

「スキナーの部屋」ウィリアム・ギブスン 倒壊した橋にバラックを組み上げ暮らす人々。新三部作の一部になったんだっけ。
「われらが神経チェルノブイリ」ブルース・スターリング 『グローバルヘッド』で既読。
「ロマンティック・ラヴ撲滅記」パット・マーフィー 近代における恋愛という観念の流行をウィルスで説明する。どうせなら神経生理とか共進化とかまで広げてほしかった。
「存在の大いなる連鎖」マシュー・ディケンズ あらゆる機器に潜入するコンピュータウィルスの驚異。何かすごく素朴でファンタジックな…最後の最後の雰囲気はよいけど悪い意味で古い。
「秘儀」イアン・クリアーノ ある異端の神学者の思想について。偽史ファンタジーの雰囲気は好きだな。カッパドキアいいね。
「消えた少年たち」オースン・スコット・カード 息子の「想像の友人」たちはどうやら近隣で失踪した少年たちらしい。ダークな雰囲気とハマった隠喩がよかったけど、最後に優しい話になると却って居心地悪い。あとがきまで含めると安易に面白いとは言いにくいけど面白い話。
「きみの話をしてくれないか」F・M・バズビー 屍体娼館を訪れた男の出会い。かなり一発ネタではあるがききまくった皮肉が強烈。
「無原罪」ストーム・コンスタンティン 電波系な美少女と彼女を撮影する仮想現実デザイナーの奇妙な交流。こういうガジェットを上手く使ったちょっとグロテスクな奇想幻想譚がかなり好きらしいと最近解ってきた。色々釈然としないが雰囲気がよいから好き。
「アチュルの月に」エリザベス・ハンド 男性性と女性性が緊張を持って対峙する宇宙ステーションに現れた人工奴隷。題材を率直に使っているが、磨耗しつつある人工環境の雰囲気や、少年の愚かしい奇跡などが綺麗でいい。フェミニズム/性SFは論はよくわからないけどグロテスクだったりシュールリアルなイメージが出てくる楽しいのが多い気がする。
「火星からのメッセージ」J・G・バラード 初の火星有人着陸をなしとげた宇宙飛行士たちは、無事帰還したものの宇宙船から出てこない。バラードがかもし出す素材的で破滅的な風景は好み。
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「翼を愛した男たち」

フレデリック・フォーサイス=編 原書房

「わたしの初めての飛行機」H・G・ウェルズ 田舎の向こう見ずな坊ちゃんが買った飛行機で巻き起こすドタバタ騒動。
「ハンス・プファールという人物の無類の冒険」エドガー・アラン・ポオ 気球でエーテルを潜り月へ行ったと語る手記。皮肉なオチがよい。中国の奇術師?
「高空の恐怖物体」コナン・ドイル ある飛行気乗りが推察しその一端を覗いた「空のジャングル」とは。結構ハデでグロテスクでよかった。
「スパッドとシュパンダウ」W・E・ジョンズ 戦闘もの。WWI、アメリカよりの部隊VSリヒトホーフェン・サーカスの巻。まぁ連合軍が勝つんでしょうという思ってしまうな。今ひとつ。
「世界でいちばんすばらしい人々」H・E・ベイツ WWII、爆撃機乗りになった青年が愚直なまでに勤勉だった両親に思いを馳せる瞬間。ちゃんと読めてないけど少なくとも緊張と開放が鮮やか。
「彼らは永らえず」 ロアルド・ダール 偵察の飛行士が迷いこんだ彼岸めいた世界。飛行気乗りの彼岸は綺麗だけど結局話はそこから外れないんだなぁ。実はちょっと不満。
「羊飼い」フレデリック・フォーサイス 計器の故障で着陸不能になった戦闘機と、彼を誘導する“羊飼い”。一足飛びにオチを予想してしまうせいでちゃんと雰囲気に浸れなかった。失敗した。
「ヴィンターの朝」レン・デイトン 戦闘もの。WWI、フランドル、暁の哨戒出撃の巻。
「ウェーク島へ飛ぶ夢」J・G・バラード ウェーク島へ飛ぶ夢を抱きつつ砂丘に埋もれた爆撃機を掘り出す精神病者。テクノロジーによって狂わされ再構築する人間。飛行機という強力なネタを上手く使う人だな。しかし、これも死亡した宇宙飛行士ものだったとは。
「猫」リチャード・バック ジェット戦闘機乗りの訓練。軍人たちのジンクスの生まれる場所・瞬間。
「大空の冒険家たち」H・G・ウェルズ 打って変わって憂鬱な、ある飛行機発明家の末路。
「勇者かく瞑れり」H・E・ベイツ WWII、爆撃機乗員たちの北海漂流。乗員のキャラ付けのベタさのお蔭で陰鬱な割りに読みやすい。
「偵察飛行士」F・ブリトン・オースティン 戦闘もの。WWI、箱凧式複葉機による偵察伝令飛行士。空中戦もの。
「ミスター・スタンドファスは召される」ジョン・バカン WWI、独軍偵察隊の帰投を食い止める戦闘機乗り。長編の最終章らしい「不撓不屈の男」の最後。やっぱり戦闘もの、英雄話はピンとこない。
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