少年、野庭博正博(ノニワ・ヒロマサヒロと読む)は、「魔法」にとりつかれ、「魔法」についてしらべ、実験し、考えをふかめ、それを祖父に貰ったノートに記していく。そして偶然、魔法としか思えないような特技を持つ男、玉坂玉男にであった――
一応児童書の範疇らしいのだけど、想像していた内容とは全然違った。ていうかそもそも作者一般文芸でデビューした人だったし。
まずヒロマサヒロ(長いので自分自身ヒロマサと呼んでいる)は中学生とは思えないほど考える。考えて口に出すので可愛げがない。すごく可愛げがない。ある登場人物からは素で嫌われる。でもところどころ子どもっぽい(そもそも可愛げがないってのもつまり子どもっぽいってことだし)。まぁとりあえずよく考えて、メインの「魔法」についてもやたらと考えるので科学哲学っぽい方向まで進んでいく。つまり「魔法」は世界を見るその見方であり、存在や科学法則そのものの根本であり、また人類をここまで引っ張ってきたものである――。なるほど。こういう方向性だったのね。
その一方でもちろん「不思議」なこと、もっと普通なファンタジーや普通な少年ドラマっぽくなりそうな要素もある。でも安易に想像される方向には展開しない。主人公がひねているので玉男の披露する不思議なワザにも過剰には食いつかず、一人で黙々と考えて練習する。
この不思議なワザってのも不思議っぽさが微妙なバランスで、ティーカップを斜めに立てるとか、投げたボールが頂点に達して静止した後さらに上に向かって落ちていくとか。見た感じ、手品レベル。玉男自身のプロフィールもあっさり明かされていき、そしてあっけなくヒロマサの人生から去っていく。あくまでちょっと変わった現実の人間であって、それ以上でも以下でもない。その匙加減も結構上手い。大学生なのでヒロマサからはちょっと想像しにくい生活をしていて、まるっきり変人な会話をするかと思えば常識的で、たまにありえないようなワザを披露する。案外いそうな気がする。
ちょっと想像していた感じじゃなかったけれど、そのまんま魔法使いとかがでてきて魔法の修行したり、不思議なヒロインとであって魔法バトルとかするよりはたぶん面白かった。玉男とはそれなりに親しくなって、魔法についても何かを掴みかけたヒロマサ。だけど魔法の日々は唐突に終わる。不条理で不可解な、でもそれが現実なのか。そしてすべては、主人公自身が最後に書き記すように、記憶の一ページになる。振り返ってみれば所詮一過性の情熱だったとしても、でも確かにホンモノだった。そういう話。で、僕はそういうテーゼは結構好きなので、この話も結構好きかもしれない。