フィリップ・リーヴ 理論社
ニュートン卿の錬金術的新発明により、超光速飛行や重力制御が確立された世界。その圧倒的テクノロジーにより、大英帝国は太陽系のあちこちを支配している。主人公は、月付近の人工衛星屋敷「ラークライト」に博物学者の父と暮らす姉弟。退屈ながらも平和な毎日を送っていたがある日、人間ほどある巨大グモの一団が屋敷を急襲した。間一髪のところで脱出ポッドに乗り込み、姉弟は月へ避難。そこで出会ったのは近頃世間を騒がしている正体不明の宇宙海賊で……。
面白かった。「移動都市」の重々しさとは無縁、ピンチになっても努力や機転や救助でどうにかなるジュブナイル。でもところどころハード。むしろ筆加減一つでいくらでも重く容赦なくできる展開ばかり。気のせい?
作品世界は「錬金術」レベルの操作で超光速とかできちゃうんだけど、それだけじゃなくて実は宇宙空間に空気がある。湿気と冷気が酷いから体にはよくないけど、厚着すれば大丈夫くらいにある。宇宙船のわき腹に穴があいても、防水シートはっとけば大丈夫くらいにはある。宇宙空間を泳いでる魚型生物がいるくらいで。しかも太陽系のほとんどに生物が住んでいる。最初はいくらなんでもやりすぎ!と思ってたけど、最後の最後でそれにも説明が。ちょい違うけどジーリークロニクル思い出した。
太陽系内出身の宇宙人もわさわさ出てきて(ていうかジャック海賊団はジャック以外みんな宇宙人)、こいつらがまたいいキャラ揃い。気のいい甲殻動物ニッパーとか、イソギンチャク兄弟とか、トカゲ娘シリッサとか。人間よりもよっぽど好き。特にシリッサはリーダーのジャックに惚れてるけど姉の登場によって振られて(その代わり?)主人公に気遣われるヒロインっぷり。物語の上ではそれほどヒロインしてないけど要所要所ですごい。ドレスを着てジャックの気を引こうとしたり(当然のようにスルーされる)ね! 一応人間のヒロインとして姉がいるけれど、残念ながらこの子は保守派で人間中心主義なので口を開くたびに鬱陶しがられる役回り。可愛くありません。心を改めてからも、ツンデレ同士でカップリングされるので別の意味で鬱陶しい。まあ視点人物が弟なので仕方のないことかもしれません。キャラ萌えといえば本書のイラストはあまり萌えるものじゃなかった。あえて言うことでもないけど、そこをあえて言う。クリーチャー系はまあまあ萌えるけど、人間とかメカは趣味じゃなかった。とくにシリッサは脳内イメージと違ってて困った。
閑話休題、ラストが少々首尾よくいきすぎな気がするけど、思いもよらないモノが侵略兵器と化す(ヒント:クリスタルパレス)クライマックスはたまらない。巨大ロボに萌え萌えっすよ。どうせなら主人公たちのも巨大ロボになればよかったのになあ!