2009年07月18日

「邪魅の雫」

京極夏彦 講談社/講談社NOVELS

連続変死事件を追う刑事青木。あの榎木津の縁談相手を調査する探偵見習い益山。事件捜査を誘導する郷島も自身何かを探しているらしい。二人の青年の奮闘は結びつくのかつかないのか、邪悪な黒い雫に魅入られた人々の奇妙な連鎖は何処にたどり着くのか。
一気呵成に読んだ百鬼夜行シリーズも刊行ペースが落ちてからすっかり忘れてしまったなあとふと思い出して読んだ。どの登場人物が既に登場していた人か解らなくてちょっと入るのに手間取ったが、益山がその軽薄さと裏腹な根暗さ加減を存分に発揮しはじめてからは調子よく楽しめた。榎木津の内心とか関口と益山の根暗珍道中とか青木の成長とか恋愛話っぷりとか、公式同人かっと言いたくなるようなワクワクさが盛りだくさんで正直ごちそうさまでしたが、大ネタはいつにも増して手間かかってそうで、かつ地味で展開も苦しくて一般的にはこれ不評だろうなぁと想像していらん心配をしてみる。
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「メタモルフォーシス」

アントーニーヌス・リーベラーリス 講談社/講談社文芸文庫

「名前の意味から解放奴隷の出身とされるリーベラーリスが、神話やフォークロアに材を求め創造した四十一の変身物語」ということで、カーソンが『変身物語』を何度も引用していたので読んだ。登場人物の視点に沿って情感的に詠うオウィディウスの物語と違って、これはかなり原典に近いらしい素朴な「そのまま」の話。広義の変身を扱った話を色んなソースからピックアップしてきただけなので、脈絡はくるくる変わり誰がどうなって変身する話なのか読み終わるまで予測させない。別の説話と融合していたりとか、他の物語には言及のない英雄が出てきたりとか、神話伝承研究の資料としては貴重なものらしい。とりあえず神の罰か慈悲で変身する場合、大抵鳥になる。半分以上鳥。鳥じゃないほうが珍しい。どんだけ鳥が好きなのって古代ギリシャ人のイメージ変わりました。
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「ヴェネツィアに死す」

トーマス・マン 光文社/光文社古典新訳文庫

強固な意志を表した著作によってしられる高名な作家アッシェンバッハ。ヴェネツィアの海水浴場で、同じく休暇旅行中のポーランド一家の子供タッジオの虜になった彼は、コレラが蔓延していくのを知りつつ少年を見守り続ける。
映画の終幕部分だけ観たことがあったのだが、なるほどこういう話だったのかと。ギリシャ古典の引用によって神話的な領域まで高められた余暇の非日常の中で、美に導かれ高揚する精神と滅びるしかない肉体の物語。筋のスキャンダラス加減には今となっては目新しさは無いけれど、引用と暗示を張り巡らし不可避の結末に向かって進んでいくかっちりした話なので結構好きだ。訳者解説によると小説としての伏線を認識しえないアッシェンバッハの視点からすれば美による頽廃ではなく完全性の回復であるらしく、それもなるほどなぁとも思うけどやっぱり暗示や寓意が好きなもんで。
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「マダム・エドワルダ/目玉の話」

ジョルジュ・バタイユ 光文社/光文社古典新訳文庫

エロスの極限に人間らしさの限界を置いて自己の存在を探すとか……大雑把だけどそういう話なのか。生生しくて正直ちょっとキツかった、というのは死体は別にそうでもなくてゆで卵の白身があまり好きじゃないという意味で。(テクストはまるきり関係ないけど本のページが何か変な強い臭いを放っているってのもある) とりあえず身近な食べ物を使うのは影響力が強くて上手いなあ、と解釈する。そういえば微妙に距離をとった語りのせいでどこまで登場人物の視点でどこからバタイユの語りなのか混乱してしまった。
「マダム・エドワルダ」 商売女との熱狂と忘我の一夜、醒めては実存に悩む。
「目玉の話」 倒錯の果て、玉子と目玉に憑かれた色情狂と化していく二人の若者。中盤のマルセルを助け出すくだりの冒険・怪奇小説っぽさが高くて驚いた。最初延々倒錯行為してる話かと思っていたので。
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2009年07月09日

「神を見た犬」

ディーノ・ブッツァーティ 光文社/光文社古典新訳文庫

こうして読むと教会・宗教を題材にした話が多いのだな。別の短篇集を読んだときは「七階」や「病院というところ」みたいな不条理な悪意・窮地を書いたものが多い印象だったのでちょっと意外。

「天地創造」 天地創造で人間が出来るまでの話。
「コロンブレ」 既読。男を付回す運命の使者、怪魚コロンブレの話。
「アインシュタインの約束」 アインシュタインに死の運命を告げに来た悪魔の目論見とは。
「戦の歌」 勝利に勝利を重ねながら何故か敗北を歌う兵士たちの話。
「七階」 既読。不思議なシステムを持った病院の話。
「聖人たち」 既読。どマイナーな聖人たちの天国の日常。
「グランドホテルの廊下」 トイレ前で誰かとかち合うのが気まずいという話。
「神を見た犬」 既読。村人たちの疚しさを体現する野良犬の話。
「風船」 地上を見守る聖人と風船を手に入れた少女の話。
「護送大隊襲撃」 既読。たった一人になってしまった老山賊の話。
「呪われた背広」 幾らでも金が出てくる不思議な背広の呪い。
「一九八〇年の教訓」 世界一権力を持った人間が何故か死ぬという状況。
「秘密兵器」 冷戦が生んだ究極の秘密兵器洗脳ガスの話。
「小さな暴君」 甘やかされ腫れ物に触るように育てられた少年の話。
「天国からの脱落」 若者たちの未来への希望に憧れた聖人の話。
「わずらわしい男」 誰彼構わずわずらわしく付きまとう男の所業。教会でも神にわずらわしくすがるという展開は愉快。
「病院というところ」 重傷を負った彼女を病院に担ぎ込んだものの、杓子定規にかつ的外れにしか扱われない話。
「驕らぬ心」 空き地の隠者に何度となく慢心を告解にくる司祭の正体。
「クリスマスの物語」 些細な独占欲で失ってしまった神を探し求める話。
「マジシャン」 芸術と言うものの無力・無為を論じてくる友人の話。
「戦艦《死》」 WWU中に建造され闇に葬られた謎の秘密兵器の話。
「この世の終わり」 世の終わりに直面し一斉に告解に押し寄せる人々。
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「SF本の雑誌」

本の雑誌社/別冊本の雑誌・15

「本の雑誌」のSF関連特集やSF書評の採録+α。昔の書評を見るに昔から最近のSFはつまらないと言われてたんだなーと言う気分になるが何かズレているかもしれない。目玉は新しいオールタイムベストを創ろう企画っぽいけどオールタイムベストなるものには特に興味が無いので割愛。北上・大森の「<書評漫才>出前篇」はなんか仲良さそうなやり取りに、ついニヤリとしてしまう。各種ベスト10企画は今ひとつピンと来ず。とり・みき「SF大将特別編 万物理論」はなかなか。やっぱり見立て系が面白いなと思う。あと何故か新作の小説も一遍だけ載っている。円城塔「バナナ剥きには最適の日々」は宇宙探査機に搭載された宇宙人判定用AIの一人称で、いつもより文体も用語も大人しめ。常に人間の意識を模倣させられ、かつ正気でいつづけなくてはいけないAIの夢想が、人と宇宙の相容れなさを示しているのかなーなどと。
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「いずれは死ぬ身」

柴田元幸・編訳 河出書房新社

『夜の姉妹団』のもとになった連載の残り+、ということらしい。死や喪失で通じたアンソロジーになったので「いずれは死ぬ身」がタイトルになったらしいけど、そういえば『夜の姉妹団』もそういう話が多かったっけ。柴田アンソロジーは色々出ていて、どれとどれが同じ媒体とか単行本でだけ見てるとわからんな。面白かったのは「ペーパー・ランタン」「イモ掘りの日々」「遠い過去」「同郷人会」「準備、ほぼ完了」「フリン家の未来」あたり。

「ペーパー・ランタン」スチュアート・ダイベック 夕食を食べて戻ってくるとラボが燃えていたのを見て、昔、火事を眺めた経験を思い出す話。
「ジャンキーのクリスマス」ウィリアム・バロウズ ジャンキーのちょっとイイ話。
「青いケシ」ジェーン・ガーダム 老母と公爵邸の庭園へ青いケシを観にいった話。
「冬のはじまる日」ブリース・D’J・パンケーク 兄家族に荒廃していく農場と両親を押し付けられた弟の話。
「スリ」トム・ジョーンズ 地下室の蜘蛛と戯れる老スリの話。
「イモ堀りの日々」ケン・スミス 出稼ぎのジャガイモ堀りから見る社会と歴史。
「盗んだ子供」クレア・ボイラン 子供泥棒としたたかな母親たちの話。
「みんなの友だちグレーゴル・ブラウン」シコーリャック ピーナッツと『変身』のダブルパロ。
「いずれは死ぬ身」トバイアス・ウルフ 新聞の訃報記事書きの遭遇するトラブル。
「遠い過去」ウィリアム・トレヴァー アイルランドに暮らす英国王室支持の没落貴族と、周辺住民の話。
「強盗に遭った」エレン・カリー 強盗に遭って顕在化する店長と客の不和。
「ブラックアウツ」ポール・オースター 色の呼び名を持つ探偵たちの対話。解らない。『幽霊たち』という中篇の原型らしい。
「同郷人会」メルヴィン・ジュールズ・ビュキート 在米ユダヤ人第一世代の話。
「Cheap Novelties」ベン・カッチャー 都会の不安とか侘び寂びを救う1ページ漫画。
「自転車スワッピング」アルフ・マクロフラン 自分の記憶から失われた瞬間を聞き出すべく末期癌の友人を見舞う話。
「準備、ほぼ完了」リック・バス 炎天下、湖の真ん中でひたすらに大ナマズを釣る老人と、彼を物陰から観察する男の話。
「フリン家の未来」アンドルー・ショーン・グリア イタリアレストランに来た一家が、子供の変な注文を予感に現状と未来が交錯する話。
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2009年07月06日

「ZOKURANGER」

森博嗣 光文社

 民間研究所から大学の准教授に転職した品川は、研究環境改善委員会の委員をすることになる。ところでこの委員会、何故かそろいのコスチュームがあるのだった。
 というわけで戦隊ものパロディでかつ「大学もの」らしいという話を聞き、主に大学ものの部分に惹かれて読んだ。「黄色の背信」「桃色の励起」「青色の有閑」「緑色の品格」「赤色の研究」という構成で、各章ごとに委員会の五人のメンバーが各人の主観で整合性を微妙にスライドしあいながら日常への違和感と委員会への興味を並べていく。ただあまり振れ幅がないというか、確かにどれもあるあるなんだけど、身近にあるある過ぎてちょっと面白みに欠けた気がした。「科学の基礎研究なんて夢やロマン以上の意味なんてあるわけないんだからそれを『トクサツ』というより解りやすい夢・ロマンでコーティングすればおk」というオチは、順番がおかしいというか、よくこんな適当なので小説書けるなーと脱力。まぁこれはこれで。
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「聖女チェレステ団の悪童」

ステファノ・ベンニ 集英社

イタリアをモデルにしたであろう架空の国グラドニアの片隅にしょぼくれた孤児院が一つ。そこに暮らすメモリーノ、ルシフェル、アリの三人は、アウトロな子供たちが彼らの守護者「大いなる厄介者」の庇護のもと秘密裏に行うというストリートサッカー大会のエントリー権を獲得、孤児院を脱走し会場とメンバーを探すためにグラドニア中を走り回る。教会の地下墓地、失業者の集う裏町、大ファーストフードショップ、混沌のビーチ、マフィアの夢の跡……ようするに現代欧州(多分特にイタリア)の問題を物語に落とし込んだカリカチュア巡りであり、イタリア崩壊の予言そのもの。
ストリートサッカーの存在を嗅ぎつけたメディア王が新しいトレンドにするべく軍を動かすと、後はもう一切容赦のない展開が続く。ジュブナイルみたいなものかと思って読み始めたので、中盤以降あからさまにドぎつくなっていくあたりから平静では読んでいられなかった。予言の発端であり、あちこちで顔を出し奇才を発揮する芸術家ペリコルティ一家とか、あと肝心のストリートサッカーとか、素直に面白がれる要素もちゃんと入っているのが上手いところだ。しかしこのメディア王のキャラにあからさまなモデルがいると言うのはすごいし、この本がベストセラーになったというのはもっとすごい。イタリアやばい。
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2009年07月04日

「コップとコッペパンとペン」

福永信 河出書房新社

「コップとコッペパンとペン」 ある一族三世代を軽やかに繋いでいく。よく解らないけど改行したらいきなり死んでたり子持ちになってたりする展開の緩急や、全然謎に踏み込まない距離は面白い。よく解らないけど。
「座長と道化の登場」 デパートを舞台に、更衣室とトイレで見知らぬ他人に距離をつめられてあせる二人。よく解らない。
「人情の帯」 公衆電話を使う女子高生と小学生の交差しない二人の一日。遍在するようでポケットの中については留保するなど、微妙に限定された神の視点による記述が興味深い。けどどういう話なのかはよく解らない。
「2」 「人情の帯」の裏側で、二つを繋ぐようだけどよく解らない。
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