2009年07月21日

「スタークロス」

フィリップ・リーヴ 理論社

“ヴィクトリアンスペースオペラ”『ラークライト』の続編。ラークライトを普通のお屋敷に改装する間、一家はリゾート小惑星「スタークロス」を訪問する。小惑星帯のど真ん中にありながら一日一度出現する「海」を売りにした観光地にはなにやら怪しげな秘密があるらしい。
旧支配者の陰謀により太陽系中を駆け回った『ラークライト』の続編ということで、今度は遠未来からの侵略を食い止めるべくタイムトラベルする。さすがに続けてSF的設定の大ネタは出せなかったようだけど、英仏対立とかアメリカの顛末とか(改変)歴史モノの要素の部分は相変わらず楽しかった。時代に即した国家政治個人の描き方と、ジュブナイルとして正しいあり方の摺りあわせは安心の丁寧さだけど、ルーブの教化は別に誰も気にしないのか。そりゃしてどうするってところだし自衛っちゃそうなんだけども環境に不適合すぎるんじゃ。
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2009年07月18日

「邪魅の雫」

京極夏彦 講談社/講談社NOVELS

連続変死事件を追う刑事青木。あの榎木津の縁談相手を調査する探偵見習い益山。事件捜査を誘導する郷島も自身何かを探しているらしい。二人の青年の奮闘は結びつくのかつかないのか、邪悪な黒い雫に魅入られた人々の奇妙な連鎖は何処にたどり着くのか。
一気呵成に読んだ百鬼夜行シリーズも刊行ペースが落ちてからすっかり忘れてしまったなあとふと思い出して読んだ。どの登場人物が既に登場していた人か解らなくてちょっと入るのに手間取ったが、益山がその軽薄さと裏腹な根暗さ加減を存分に発揮しはじめてからは調子よく楽しめた。榎木津の内心とか関口と益山の根暗珍道中とか青木の成長とか恋愛話っぷりとか、公式同人かっと言いたくなるようなワクワクさが盛りだくさんで正直ごちそうさまでしたが、大ネタはいつにも増して手間かかってそうで、かつ地味で展開も苦しくて一般的にはこれ不評だろうなぁと想像していらん心配をしてみる。
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「メタモルフォーシス」

アントーニーヌス・リーベラーリス 講談社/講談社文芸文庫

「名前の意味から解放奴隷の出身とされるリーベラーリスが、神話やフォークロアに材を求め創造した四十一の変身物語」ということで、カーソンが『変身物語』を何度も引用していたので読んだ。登場人物の視点に沿って情感的に詠うオウィディウスの物語と違って、これはかなり原典に近いらしい素朴な「そのまま」の話。広義の変身を扱った話を色んなソースからピックアップしてきただけなので、脈絡はくるくる変わり誰がどうなって変身する話なのか読み終わるまで予測させない。別の説話と融合していたりとか、他の物語には言及のない英雄が出てきたりとか、神話伝承研究の資料としては貴重なものらしい。とりあえず神の罰か慈悲で変身する場合、大抵鳥になる。半分以上鳥。鳥じゃないほうが珍しい。どんだけ鳥が好きなのって古代ギリシャ人のイメージ変わりました。
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「ヴェネツィアに死す」

トーマス・マン 光文社/光文社古典新訳文庫

強固な意志を表した著作によってしられる高名な作家アッシェンバッハ。ヴェネツィアの海水浴場で、同じく休暇旅行中のポーランド一家の子供タッジオの虜になった彼は、コレラが蔓延していくのを知りつつ少年を見守り続ける。
映画の終幕部分だけ観たことがあったのだが、なるほどこういう話だったのかと。ギリシャ古典の引用によって神話的な領域まで高められた余暇の非日常の中で、美に導かれ高揚する精神と滅びるしかない肉体の物語。筋のスキャンダラス加減には今となっては目新しさは無いけれど、引用と暗示を張り巡らし不可避の結末に向かって進んでいくかっちりした話なので結構好きだ。訳者解説によると小説としての伏線を認識しえないアッシェンバッハの視点からすれば美による頽廃ではなく完全性の回復であるらしく、それもなるほどなぁとも思うけどやっぱり暗示や寓意が好きなもんで。
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「マダム・エドワルダ/目玉の話」

ジョルジュ・バタイユ 光文社/光文社古典新訳文庫

エロスの極限に人間らしさの限界を置いて自己の存在を探すとか……大雑把だけどそういう話なのか。生生しくて正直ちょっとキツかった、というのは死体は別にそうでもなくてゆで卵の白身があまり好きじゃないという意味で。(テクストはまるきり関係ないけど本のページが何か変な強い臭いを放っているってのもある) とりあえず身近な食べ物を使うのは影響力が強くて上手いなあ、と解釈する。そういえば微妙に距離をとった語りのせいでどこまで登場人物の視点でどこからバタイユの語りなのか混乱してしまった。
「マダム・エドワルダ」 商売女との熱狂と忘我の一夜、醒めては実存に悩む。
「目玉の話」 倒錯の果て、玉子と目玉に憑かれた色情狂と化していく二人の若者。中盤のマルセルを助け出すくだりの冒険・怪奇小説っぽさが高くて驚いた。最初延々倒錯行為してる話かと思っていたので。
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2009年07月09日

「神を見た犬」

ディーノ・ブッツァーティ 光文社/光文社古典新訳文庫

こうして読むと教会・宗教を題材にした話が多いのだな。別の短篇集を読んだときは「七階」や「病院というところ」みたいな不条理な悪意・窮地を書いたものが多い印象だったのでちょっと意外。

「天地創造」 天地創造で人間が出来るまでの話。
「コロンブレ」 既読。男を付回す運命の使者、怪魚コロンブレの話。
「アインシュタインの約束」 アインシュタインに死の運命を告げに来た悪魔の目論見とは。
「戦の歌」 勝利に勝利を重ねながら何故か敗北を歌う兵士たちの話。
「七階」 既読。不思議なシステムを持った病院の話。
「聖人たち」 既読。どマイナーな聖人たちの天国の日常。
「グランドホテルの廊下」 トイレ前で誰かとかち合うのが気まずいという話。
「神を見た犬」 既読。村人たちの疚しさを体現する野良犬の話。
「風船」 地上を見守る聖人と風船を手に入れた少女の話。
「護送大隊襲撃」 既読。たった一人になってしまった老山賊の話。
「呪われた背広」 幾らでも金が出てくる不思議な背広の呪い。
「一九八〇年の教訓」 世界一権力を持った人間が何故か死ぬという状況。
「秘密兵器」 冷戦が生んだ究極の秘密兵器洗脳ガスの話。
「小さな暴君」 甘やかされ腫れ物に触るように育てられた少年の話。
「天国からの脱落」 若者たちの未来への希望に憧れた聖人の話。
「わずらわしい男」 誰彼構わずわずらわしく付きまとう男の所業。教会でも神にわずらわしくすがるという展開は愉快。
「病院というところ」 重傷を負った彼女を病院に担ぎ込んだものの、杓子定規にかつ的外れにしか扱われない話。
「驕らぬ心」 空き地の隠者に何度となく慢心を告解にくる司祭の正体。
「クリスマスの物語」 些細な独占欲で失ってしまった神を探し求める話。
「マジシャン」 芸術と言うものの無力・無為を論じてくる友人の話。
「戦艦《死》」 WWU中に建造され闇に葬られた謎の秘密兵器の話。
「この世の終わり」 世の終わりに直面し一斉に告解に押し寄せる人々。
posted by 魚 at 11:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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